トルビズオンは今まで、2019年5月に福岡市でのドローン配送実験を皮切りに、下関市(2019/11)、つくば市(2020/02)、神戸市(2020/08)、多久市(2020/10)など、複数の自治体でドローン配送の実証実験を展開してきました。
また、2020年10月にはドローン物流先進国である中国・広州のEHANGを訪ね、社会実装されたドローン配送システムや空飛ぶクルマの運用オペレーションを実際に現地で学びました。
さらに上記の国内実験においおては、合計5つの機体メーカーで実験を実施することにより、機体メーカー一社に依存しない、ドローン配送全般におけるノウハウをハイレベルに蓄積することができました。
この分野に関する豊富な経験を活かし、最終的には自社によるドローン配送のオペレーションも開発しました。これらのマニュアルを用いて、ドローン事業者や物流企業に対して、コンサルティングを実施しています。
本記事では、そんなドローン配送の始め方をプロの視点から、余すことなく伝えていきたいと思いますので、興味ある方は最後まで読んでください。
ドローン配送3つのリスク
まず、結論から言うとドローン配送を実施するのは非常にリスクが高いです。しかし裏を返せば、それは参入障壁を築けるとも考えれるので、早く取り組む意義は大きいです。本記事ではドローン配送のリスクと、ドローン配送に今から取り組むリターンについてご説明します。
まずはドローン配送の三つのリスクについてご紹介しましょう。
(ドローン配送の3つのリスク)
1)コストパフォーマンスが悪い
2)法規制が厳しい
3)オペレーションが難しい
最近はドローン配送の実験についてのニュースをよく見かけますね。そのため、すでに珍しいものではなくなったドローン配送ですが、実際にやってみると相当ハードルが高いです。それが上記、三つの要素です。
1)コストパフォーマンスが悪い
現在、市場に出回っているドローンは空撮用のものがほとんどです。世界規模で使用されているDJIのドローンなどが有名でしょう。驚くほど、技術力が高く、素人でも簡単に操作することができる機体です。
しかし、これは物流用に特化して開発されたものではありません。物流用のドローンは国内産のものが多く、まだどこのメーカーも市場に普及できるほどの安全性を担保することができないのです。2020年に入ってようやく、数社の機体が汎用品を出してきました。
その汎用品の物流ドローンも一機あたり200-400万円程度の価格となるため、まず購入するのにコストがかかります。さらには、ランニングでかかる交換用のバッテリーや各種保険などを考慮すると、相当なコストがかかるのが現状です。
そのコストの割に、ドローン配送で稼げる収益はたかがしれています。ドローン機体が数百万円もする割に、運べるペイロード(重さ)が数キログラムに限定されているため、ちょっとした日用品程度のものしか運ぶことができません。
市場リサーチによれば、そのような物流サービスに対して、消費者が支払える空輸料金は高くても500円程度であるとされています。ドローンコストを減価償却で考えて、1日何回ドローンを飛ばせばペイできるかは、簡単に計算できますが、コスパはあまり良いとは言えないようです。
2)法規制が厳しい
2021年1月の段階では、航空法の規制によりどこでもドローンを自由に飛ばすことができません。交通量の多い道路の上空や、人が住んでいる家屋の上空を横切ることができないのです。
このようなオペレーションを「第三者上空飛行」と呼び、政府やドローンの関連事業者、学者などで構成された官民協議会において、そのルールの策定を急いでいますが、そう簡単にはいきません。
協議会での議論の中に、民法207条の問題があります。民法207条では「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」とあり、他人の所有権の及ぶ他人の土地上空にドローンで侵入することは大きなマナー違反になるからです。(ちなみに弊社が運営するsora:shareを使えば、地権者上空利用の交渉を簡便化することが可能です。興味ある方はこちら。)
このように航空法や民法の観点以外にも、プライバシー保護、テロのリスクなどセキュリティの観点からも、法的なハードルが高いのが現実です。今後、国家によるドローンの免許制度や、自動車の車検にあたる、ドローンの機体検定など、安全運航に関する担保を厚くする政策が考えられていますが、そう簡単にはいかない状況です。
3)オペレーションが難しい
ドローン配送は、今まで産業として存在していませんでした。そのため、全く一からそのオペレーションも考えていかなければなりません。もちろん、物流業やヘリや飛行機による空輸業をお手本に考えることは可能です。
国土交通省はドローン物流の検討会などを立ち上げ、その中で考慮すべきポイントなどを研究しまとめています。中身が固いので、ここでは一部を端折って説明します。
ドローン配送チェックリスト
(機体や荷物について)
□不用意に荷物が落下しない構造
□荷物の搭載方法などの知識
□荷物搭載装置の堅牢性、耐久性
□機体への搭載方法や運用制限の遵守
□過積載の防止
□荷物の搭載状況の継続的確認
□落下時の機体、荷物の回収責任
□急な降雨などから荷物を防護する処置
□荷物の盗難を防止する措置
(体制など)
□関係者に対する運航情報の共有
□飛行前の確実な点検体制
□離着陸地点の安全性担保
□飛行空域周辺の環境に応じた飛行時間帯や騒音対策の実施
□ヒヤリハット情報を集約分析し、関係者との共有
□事故発生時の原因調査体制を構築
□荷物の落下事故による賠償の担保
□荷物の落下時、第三者への損害を軽減する梱包の構造
□荷物の滅失・損害への賠償資力蓄積
(国土交通省による、「無人航空機による荷物配送を行う際の自主ガイドライン」から筆者が作成)
以上のようなポイントをおさえながら、安全な荷物の配送を心がける必要があります。上記、チェックリストは自由にご活用いただいて構いませんので、ドローン配送のオペレーションに役立ててください。
ここまでがドローン配送のリスクでした。復習しましょう、以下の三点です。
1)コストパフォーマンスが悪い
2)法規制が厳しい
3)オペレーションが難しい
コスパが高く法規制が厳しい、さらにオペレーションも難しいでは、事業として成立させるのは至難の技のように思えます。しかしながら、だからこそ、そのノウハウを蓄積してしまえば、競争優位を構築することができるのです。
ドローン配送3つのリターン
続いて、ドローン配送を今から始める三つのリターンについてご紹介します。
メリット1)先行者優位をとれる
メリット2)空路を獲得できる
メリット3)地域に信用される
メリット1)先行者優位をとれる
上でご説明したハードルがあるがゆえに、まだドローン物流に投資できる事業者は限られているのが現状です。しかし私はだからこそ、今からドローン配送に取り組むべきだと考えています。ドローン配送に取り組むべき対象として、おすすめする対象は以下の三者です。
A)既存のドローン操縦士、インフラ事業者
B)運送業者
C) 小売事業者
既存のドローン操縦士やインフラ事業者はすでに空撮や測量、点検などでドローンについての経験を豊富に持っています。ドローン物流のニーズは今後数年で爆増すると言われていますので、次なる事業機会としてイメージしやすいと思います。ドローン物流の先には空飛ぶクルマという、さらに大きなチャンスもあります。是非、ドローン物流の運航に関わって新しいスキルをマネタイズしていきましょう。
国内の運送事業者は、業界全体として今度ドライバー不足に悩まされることが統計的にわかっています。離島や山林などの過疎地では、買い物弱者の需要もあり、ドローンに頼らざるを得ない現場も多々出てくると思います。免許制、機体検定制度が整えられると、ドローン内製化の遅れは運送業界内での組織力低下に直結します。すぐ準備に動く必要があるでしょう。
小売事業者は、拠点にドローンを配備して各個宅に商品を直接配送することができるようになります。Withコロナの時代においては、自動・非接触型の荷物配送は、感染防止策として重宝されます。将来的には、倉庫からのドローン直配として完全無人のロジスティックスに進化する可能性を秘めています。
以上のような業種においては、先行してドローン配送に取り組むメリットは計り知れません。
メリット2)空路を獲得できる
第三者上空飛行の実現に向けて国は規制緩和を進めています。しかし一方で第三者の土地上空にドローンを飛ばす際に、「住民や施設管理者等とのトラブル防止に十分に留意しながら飛行を実施するよう」に通達を出しています。これは結局、住民や地権者との調整を行わずにその上空でドローンを飛行させることができないと言うことです。
そのためドローンの定期空路を設定する際には、地権者から一軒ずつ上空を飛ばす了解を得る必要があります。または地権者とドローン事業者をマッチングするサービスsora:shareなどを活用して、まとめて許可を取得します。このアプローチを取ることにより、その路線をで優先的にドローン配送を行うことができるようになることでしょう。
自分の土地上空を正体不明のドローンが飛び回ることほど、住民にとって気持ち悪く、不快なことはありません。逆に、信頼できる事業者がしっかり安全を守りつつ、確実な補償やインセンティブを地上に生活する人々に提供すれば、その空路は住民にとって必要不可欠な生活空路となるでしょう。このようにドローン物流を早期にスタートし、自社が活用可能な空路を獲得していくことは、非常に大きな競争優位性に繋がるはずです。
メリット3)信用される
我々はドローン配送の実験を様々な地域で繰り返す中で、地域ごとに異なる課題と共通の課題を見出しました。共通の課題については、日本では全国的に進行している高齢化によるものが多いです。例えばそれは、買い物弱者の増加、物流ドライバー不足、橋や道路などの朽ちるインフラ、災害時の緊急搬送のリソース不足などが挙げられます。
ドローン配送のオペレーションを社内に実装することができれば、このような問題に対応することができます。地域の企業として、平時も有事も社会に貢献することができることは大きな強みです。点検などのドローンでも搭載部を物流用の搬送BOXに変更すれば、配送ドローンに早変わりします。
このようにドローン配送の技術を身につけることで地域社会に信用され、いざという時の自治体からの協力要請にも答えられるようなれるのです。もちろん、それは事業機会に繋がるものです。
さて、ドローン配送事業のリスクとリターン、いかがでしたか?
ドローン配送をはじめるための5つのポイントをまとめると以下のようなステップになりますが、これについてはまた時間のある時にまとめて発表したいと思いますので、お楽しみに。
1)ニーズを探り、サービスをデザインする
2)自治体と連携する
3)機体・操縦者を準備し、国交省許可を取得する
4)空路の候補を考案し、住民説明を行う
5)テスト飛行を実施し、定期航路の交渉を行う
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